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日本の文化ーおしぼりとおもてなしの心の関係

日本の文化ーおしぼりに表れるおもてなしの心

新語・流行語大賞に「おもてなし」という言葉が選ばれてから5年が過ぎました。
日本のおもてなし精神を世界にアピールし、オリンピック招致活動を成功へと導いたスピーチで用いられた言葉です。
アピールポイントになるということは、おもてなしは世界的に見て稀有な精神であり、日本独特の文化であるということですね。

「もてなし」という言葉の語源は、「モノを、持って成す」という意味と「表裏無し」つまり表裏のない心でお迎えするという意味からきているそうです。
その、おもてなしの心をモノで表している品の1つにおしぼりがあります。
なんと、一流料亭からコンビニまで普通にあるのが当たり前と思っていたおしぼりは、日本ならではの伝統文化だったのです!

そう言われれば、私の記憶をたどると海外旅行に行った先でおしぼりを貰ったことはないような気がします。
また、日本を訪れた外国の方が感動することの1つに、おしぼりがあるようです。

そんなジャパニーズアイテム、おしぼりというモノと心の歴史を今回は特集します。

おしぼりの歴史

おしぼりの発祥は日本です。
熱々のタオルを畳んで丸めたものや、ウェットティッシュのようなものなど、近年のおしぼり(お手ふき)のカタチは様々ですが、時代を遡ってみると、古い歴史を持つもののようです。

奈良時代の書物である「古事記」や平安時代中期に書かれた「源氏物語」にも、おしぼりに通じる記述があるそうです。
平安時代に(一説では室町時代)お公家さんが客人を家に招く際に“濡れた布”を提供したことがおしぼりの前身とされています。

その後、サービスとしてのおしぼりが始まります。

サービスとしてのおしぼりのスタート

桶 タオル

おしぼりの原型が誕生したのは室町時代時代(江戸時代という説もあり)です。

旅籠屋[はたごや]と呼ばれた宿屋の玄関に、旅人のために水を張った桶と手ぬぐいが用意されるようになります。客は、手ぬぐいを桶の水に浸して絞り、汚れた手足をぬぐいました。
この「しぼる」という動作が「おしぼり」という言葉の語源になっていると言われています。

旅人の疲れを癒やすおもてなしの気遣いがこの時以降定着していきますが、戦争の激化により、一旦、おしぼり文化は薄れていきます。

戦後の発展の歴史

おしぼり タオル生地 大量
顔を拭く 男性

戦後の日本は急速に復興し、飲食店も増えていきます。
それに伴い、おしぼりの習慣が再び普及するようになりました。

当初は、おしぼりは自分のお店で洗い、手作業で丸めてお客様に提供していたようですが、時間と手間を省くため、昭和30年頃に、「貸しおしぼり」のビジネスが誕生します。
家庭用洗濯機でおしぼりを洗い、1つ1つ丸めて飲食店に卸すという、小規模生産ビジネスでした。

その後国内ではますます飲食店が増加したことにより、貸しおしぼりビジネスも拡大していきます。

昭和35年にはおしぼり包装機が登場します。
業務用洗濯機も使用されるようになり、量産体制が整います。

そして昭和39年のオリンピック以降の外食産業の発展に伴い、さらにレンタルおしぼりの需要は高まっていきました。
しかし粗悪なおしぼりを出す業者も出るようになったため、昭和58年に厚生労働省により貸しおしぼりの衛生基準が発表され、大腸菌や黄色ブドウ球菌などの菌の検査がなされるようになります。
この指導基準に基づき、全国おしぼり協同組合連合会が「クリーンでサニタリー」な状態である証しである「衛生マーク」を制定するようになります。
ハートとハートの結び付きがデザインされたこの衛生マーク。
今まで私は気付かずノーマークでした。
今度袋入りの布おしぼりを手に取る際にはこのマークをチェックしてみたいと思います。

近年では、タオル地が高級なもの、良い香りのするアロマを使用したもの、絶妙な温度調整がなされたものなど、多種多様なおしぼりが登場しています。
いつでも清潔なおしぼりが使える「おしぼり製造機」も誕生し、活躍の場が広がっています。

現在普及している紙おしぼりは、昭和50年代に登場し、コンビニやファストフード店の増加と共に広まってきました。
手軽に清潔感が得られるアイテムですし、右上の写真のようにこのタオルで誰かが顔を拭いたかもしれない・・という不安を感じることなく使えるメリットがあります。

飲食店だけではなく、ホテルの客室、化粧品コーナーなどでも見かけることがありますね。

おしぼりとおもてなしの精神

こうして歴史をたどると、おしぼりが廃れることなく日本の文化として根付いてきた理由が見えてきます。
それはつまり、おしぼりの背景にはもてなす側の気遣いがあり、このおもてなしの精神こそ日本人の心に根差した美しい文化であるということです。
そして、言葉に表れない心遣いを察する日本人の客としての敏感な心もまた、おしぼり定着の一助となっていると言えそうです。

具体的にどういうことでしょうか?

もてなす側の心

おもてなし 女将さん

歴史を振り返ってみると、高温多湿で汗をかきやすい日本の気候の中で、旅をしてきた客人に気持ちよく過ごしていただきたい、疲れを癒していただきたいという、お公家さんや旅籠屋店主のおもてなし精神の表れとして、おしぼりが誕生しています。
ただお茶や宿を提供するだけでなく、心地良さも提供したいというこのホスピタリティーが本当に美しいですね。

戦後以降の発展を考えると、ライバルひしめく飲食店業界が激戦を勝ち抜き、お客様の心を自分のお店に引き寄せるためのアイテムとしておしぼりが活用されていたことが伺えます。

コスト削減のためにおしぼりを無くすのではなく、「ぜひうちの店でくつろいでもらいたい」という心を込めて、おしぼりをマストな品として日本の飲食店は提供してきたのです。

もてなしを受ける側の心

無意識かもしれませんが、お客の立場としてもこのおもてなしの精神は感じ取れるものですよね。
お店に入り、席についてすぐにお冷と一緒に清潔なおしぼりを提供してもらえたら、なんだかホッとするものです。

個包装のペーパーおしぼりも、手を拭くとスッキリ気持ち良く料理に集中できます。

これがもし、個包装されていてもカピカピに乾いた古そうなペーパーだったらどうでしょう?あるいは、布おしぼりでも生乾き臭漂う物だったらそのお店に対してどういう印象を持つでしょうか?
このお店はお客への細やかな配慮がないな…古いおしぼりを出すなんて、あまりお客さんが来ないお店なのかな…と感じてしまうかもしれません。

こうしておしぼり1つでお店の第一印象が決まり、店主の心意気が伝わり、客の心が動くのです。
おしぼり1つで、「大切におもてなしされている」と感じることができ、「いいお店だ」と思い、リピーターになる。
そしてそういうお店が生き残ってきたというのが、日本の飲食店業界とおしぼりの歴史と言っても過言ではないかもしれません。

この美しい日本のおもてなし精神は、世界へと広がっています。

世界へ広がるおしぼり

昭和34年(1959年)に日本航空が国際線でおしぼりを提供して以降、日本ならではのサービスとして世界でおしぼりが注目されています。
現在では国際線の機内食サービスで熱いおしぼりが提供され、外国の方に好評のようです。

海外ではビジネスクラスのみ、おしぼりサービスを提供する会社も出ているようです。
海外では、日本を紹介するガイドブックに“oshibori towel”(おしぼりタオル)として載せられているそうで、日本流おもてなしが世界に紹介されています。

これからオリンピックが間近に迫り、海外からのお客様をおもてなしする機会も増えることでしょう。
過去の東京オリンピックを皮切りにおしぼりが発展したのと同様、2020年東京オリンピックでも、外国からの観光客へのおもてなしサービスとして、おしぼり人気が高まるかもしれません。

まとめ

日本発祥であるおしぼりは、お客様に気持ちよく過ごしていただきたいというおもてなしの心が表れて誕生した美しい伝統文化です。
心遣いから生まれたアイテムが人の心を捉え、現代にまで定着してきました。

近年は多種多様な種類のおしぼりがあります。
海外からの旅行客が増えている今、自分のおもてなしの気持ちを体現するのにピッタリなおしぼりを検討してみるのも良さそうですね。

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